<1>おもてなし方法の変遷

 まず、このページをお読みくださっている方なら一度は耳にしたことがあると思われる「ハラール」について、改めて確認してみたいと思います。

 

 イスラム教徒(ムスリム)は、唯一で他に比べる存在のない、この世のすべてを創造した全知全能の神様(アッラー)を信じ、その神様から人間に与えられた、社会・家族・友人関係など生活全般にわたる膨大な知恵・知識にしたがって生きています。

 

 

 「ハラール」とは「神様が許している」という意味で、その反対にあたる「禁じている」ことは「ハラーム」といいます。 ムスリムは神様から義務とされた事や勧められた事を行ない、ハラームな事を行なわないように気を付けます。ハラームな行動としては、約束を守らない、他の人を傷つける、禁じられた物を食べるなど様々ありますが、日本の事業者様がムスリムのお客様をおもてなしする際にも、食事礼拝異性との接し方等でハラームを避け、ハラールでいられるとお客様に満足していただけるでしょう。

 

 飲食店、宿泊施設を問わず、最も重要なのは食事です。簡潔にまとめると、

point
  • 豚、ならびに適切な方法でと畜されなかった牛や鶏等の動物等、また血液等の不浄なものは、神様が「食べてはいけない」と言っているので食べない。
  • お酒は、神様が「酔ってはいけない」と言われているので飲まない。

という論理でムスリムは考えます。

 

 日本に来て「イスラームを知らない人が作ったこの料理(製品)に、本当にハラームなものが入っていないか」と、つい心配になってしまうムスリム旅行者の気持ちに配慮し、安心していただくための説明や接客が重要になります。ただし、これらの対応は通常のお客様へのおもてなしの延長上にあるので、難しく考える必要はありません。具体的には「食のおもてなし方法の変遷」で説明します。

 

 礼拝については、礼拝の時刻・方角がわかっており、本人が清潔にしてから、清潔な場所で礼拝ができるように必要な情報や環境が提供できればほぼ十分です。

 

 異性との接し方については、見知らぬ異性どうしが身体的に接触したり、密室に2人きりになったりしない、肌の露出をし過ぎないなどムスリムが戸惑わない接客方法があります。

 

 いずれも、お客様個人個人で考え方や実践に差があるので、おもてなしする側としては基本的なことを知っておけば良いでしょう。詳しくは別の機会にご説明します。

食のおもてなし方法の変遷 ハラール認証から情報開示型へ

 日本で訪日ムスリムへのおもてなしのキーワードとして「ハラール」が大きく注目されるようになったのは2013年頃からです。為替の変動、東南アジアからのLCC(格安航空会社)の就航、訪日ビザの緩和などにより、ムスリムの観光客も増えてきた背景がありました。

 

製品としては2013年よりも前に、市場であるマレーシア・インドネシアからの要望に応え、輸出向けにハラール認証を取得した企業が数十社あったようです(認証団体が非公開にしているため、実数は不明)。

 

 ハラールがマスコミで取りざたされた当初、飲食店やホテルで一般的だった取組み方法はハラール認証(イスラームと食品衛生に詳しい私的専門家による第三者認定)取得です。ハラール認証団体が主導する「ムスリムのお客様はハラール認証がある店なら安心して消費する」との考えのもと、認証取得店が数店できました(なお、この考え方は一概に認証団体の儲け優先とは言い切れません。食材を想像しにくいメニューは、ハラール認証を見て安心するお客様もいます)。

 

 その後、ハラール認証取得に費用をかけた割にお客様が増えず、撤退する店が出る一方で、ハラール認証がなくてもムスリムのお客様からの信頼を得て、売上げを伸ばす店舗も現れました。

 

 そして、ムスリムの留学生や在住者などの意見を聞いていくなかで、ムスリムの求める条件にも個人差があり、ハラール認証がなくてもお客様に来ていただける方法があることがわかってきました。実はこれらのことは日本在住ムスリムの方々はずっと前から実感していたことでした。この5年あまり、ハラール認証団体やコンサルティング団体やメディアなどが試行錯誤をして日本社会の現状に合うおもてなし方法に向かっている印象です。

それが、

point
  1. 自店が可能な範囲での①原材料や調味料の選択、②調理する環境づくりをする
  2. 上記1.の状況を正確に伝え、納得してくれたお客様に入店していただく

という方法です。

 

 現在はハラール認証団体をのぞき、自治体のつくった冊子の内容やコンサルタントの助言等はだいたいこの考え方でまとまってきました。