「おもてなし取組みステップ」での説明にあった「A.急にムスリムのお客様が来店した時にトラブルなく対応したい」というリスク回避方針の店は、割合的には多いと思います。
例えば、以下のような対応が考えられます。
ステップ3.「自店の戦略、目標、おもてなし方法を決める」にて
受入れるかどうかを決める
→ 受入れる場合、ムスリムも安心して食べられるメニューのレシピを明確に決める。
ステップ4.「お客様に自店のおもてなし方法をどのように伝えるかを決める」にて
ムスリムのお客様が来た時は、自店のムスリム向けメニューとキッチンの状況(例:他の食事メニューとしては豚肉や酒を使っている等)を伝えることを決めておく。
ステップ5.の集客は特にしない。
背伸びをしてムスリムのお客様を取り込む必要はないので、ムスリムにも食べてもらえるメニューがあれば提供し、ありのままを説明して納得してくれたお客様だけ受け入れれば良いでしょう。
「おもてなし取組みステップ」での説明にあった「B.ムスリムのお客様を積極的に集客し、店の売上を伸ばしたい店」に重要なのは、戦略をもった対応と集客です。
基本的対応
下記のような対応により、来店後の行き違いによるトラブルを避け、お客様の満足度を上げることができます。
ステップ3.「自店の戦略、目標、おもてなし方法を決める」にて
店での対応を決めておく
ステップ4.「お客様に自店のおもてなし方法をどのように伝えるかを決める」にて
お客様に説明(ウェブ/店頭掲示/メニューにて、注文前に)する
→ お客様が判断 「入店する」or「他へ行く」
このとき、心配の強いムスリムのお客様でも安心いただけるようにと対応を強化するほど、より広範囲の潜在顧客を得ることができますが、同時にコストがかかる条件は増えていきます。
例えば、
対応方法 |
追加コスト |
今の提供メニューの食材を変えてムスリム向けメニューをつくる |
ゼロ |
ハラール認証肉やハラール認証調味料を使ったメニューを用意する |
数千円~ |
ムスリム向けメニュー専用の調理器具(まな板、包丁、鍋、フライパンなど)を新規に用意する |
数千円~数万円 |
ムスリム向けメニュー専用の食器・カトラリー/箸を新規に用意する |
数千円~数万円 |
レストランで他のお客様も含め、一切のアルコールを提供しない |
売上の機会損失 大 |
さらに、これらの対応内容とは別に、売上げを増やすための戦略的な対応のポイントが3つあります。
いわゆるゴールデンルート(東京~富士山~京都~大阪)とそれ以外では状況は異なります。東京や大阪であれば3年前にはハラールに取組むお店自体が少なかったものの、今では増えてきました。最近は「口コミ評価の高さ」「料理ジャンル」「味」「写真(インスタ)映え」などで人気に差がついています。
ゴールデンルート以外の地域では、最初の一歩としてはムスリム向けメニューの用意などに取り組むことさえできれば未対応の店に対しては差別化できますが、それ以前にムスリム観光客を地域に呼びこむ必要があります。そのためには地域全体の魅力を高めるためにムスリム対応店舗数が増える必要があるので、地域内での協働が重要になります。
ムスリムやベジタリアン(特にヴィーガン※)向けに特化する飲食店以外は、一般のお客様、つまり「ムスリム(ベジタリアン)ではない」「ご近所の」会社員や住民からも継続してご愛顧いただけるようなコミュニケーションの仕方が重要です。
例えばムスリム以外にはお酒を提供しつつ、どのようにムスリムに食事を楽しんでいただくかなど店の状況によってできる事が異なります。
※卵や乳製品も含め動物性のものを一切食べず、動物皮革なども使用しない主義の人
食の制約のある人々はムスリムに限りません。ユダヤ教徒やヒンドゥー教徒、素食(台湾人の1割と言われる)や各種のベジタリアンなど、ムスリムへの対応と同じ方向性で食材を切り替えておもてなしできるお客様がいます。一つ一つのジャンルのお客様の数は少ないですが、複数のジャンルを同時に取り込むことで潜在的なお客様を増やすことができます。
ステップ5の集客については、現在の大変重要な課題です。次の<4>集客強化こそが成功のカギで詳しくご説明します。
方針Bの店にとって、自店の状況に合わせ自力で判断することは不可能ではないものの、試行錯誤の時間と手間を短縮したい場合や、チェーン店として全店舗の足並みを揃えたい場合は、行政を通じて、あるいは自力で専門家(コンサルティング会社もしくは先進的なお店)を探して相談するのが良いでしょう。
なお、もしあなたが個人的に知り合ったムスリムに相談する際には、在住十数年の人や、在住数年の留学生、観光客など、できるだけ複数のバックグラウンドが異なる人達にご相談することをお勧めします。当のムスリムの考え方が十人十色(それがこの宗教の懐の深さです)なので、多様な考え方を吸収してこそ、どのような考えのお客様が来られた時も自信を持って対応ができるのです。